三日月の下、君に恋した
 先刻までの会議同様、堂々めぐりだった。

 人を追い詰めるのがそんなに楽しいのかと聞きたくなるくらい、専務は無表情を装いながらこのやりとりを面白がっている。


 おそらく代わりの人材は既に用意されているのだろう。


 最初の会議で葛城リョウの名前を出したのも、航を交渉役に指名したのも、マスコミ嫌いのリョウが承諾するはずがないと踏んでいたからだ。


 営業企画部は使い物にならないと全社に証明して、自分が全権を握りたかっただけだ。


 最初から、この男は本気で葛城リョウを使うつもりなんかなかったのだ。


──話し合っても無駄だ。


 そんな投げやりな気持ちに心ごと掬われそうになって、航は拳に力をこめた。

「申し訳ありませんが、今の段階では専務にお話することはできません」


「それはどういうことだ?」

「葛城先生が、現在執筆しておられる次の作品に関わる話だからです。葛城先生からは、社長に直接話すようにと言われています」

 梶専務が驚いた目をして航を見た。顔色が変わった。


「次の作品って、まさか……」

「葛城先生の三年ぶりの新作が発表されるのは、ちょうど、わが社の六十周年キャンペーンの時期と重なるそうです。つまり、日本中が待ち望む彼の新しい世界を、どこよりも早くうちの広告が伝えることになるんですよ」
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