三日月の下、君に恋した
 気がついたら服を脱がされてベッドに横たわっていて、永遠に続きそうなキスにこたえるだけで精一杯だった。キスだけで気が遠くなり、体がばらばらになりそうだった。

 彼がようやく菜生の唇から離れて、つかのま嵐がやんだので、ほっとした。


 彼はわずらわしそうに上着を脱ぎ捨てると、ネクタイを乱暴にふりほどき、シャツを脱いだ。菜生の視線に気づいて、自らを落ち着かせるように息を吐く。

 ふたたび彼の顔が近づいてきて、彼の手が菜生の体にふれたとき、菜生はその手の熱さに驚いた。手だけじゃない。彼の体のすべてが火のようだった。


 菜生はとっさに手をのばして、航の額にふれた。

「熱が……」

 その手を航がつかんで、やんわりと払う。

「たいしたことない」

「でも」

「ここでやめられると思ってんの?」


 暗く翳った真剣な瞳が菜生を見つめる。視線さえも熱を持っているような錯覚に陥る。

 もう一度彼に抱かれると思うと胸がしめつけられた。彼を想う気持ちが全身にあふれて、止められなくなりそうだった。
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