三日月の下、君に恋した
 こんなに爽やかな光の中だと、昨夜の興奮が遠く隔たった夢の向こうのもののように思えた。

 でも、体はちゃんと覚えている。

 思い出すのも恥ずかしいのに、その恥ずかしいことをした相手が目の前にいて、とても艶かしく見えるのだから手に負えない。


 彼は頭の後ろで手を組んで、それからしばらく天井を眺めて何か考えこんでいた。そのうち、ためらいがちに
「どうやって社長と連絡取ったの?」と聞いた。


「秘書の長崎さんに、頼んだんです」

 航が知らないという顔をしたので、菜生は続けた。

「でも、その前から社長とは会っていて。偶然なんですけど」


 菜生は、以前から社長とは知らずに公園で会っていたこと、それを知った梶専務が菜生と社長の関係を誤解していること、社長が菜生の身を案じて長崎雅美を紹介してくれたことなどを話した。

「今の社長は、絵が描きたくても描けないみたいなんです。だから、葛城先生の依頼を断ったのも、そうするしかなかったんだと思います」


 航は黙って白い天井を見つめている。

「葛城先生は、どうしてあんな条件を出されたんですか。社長が前に絵を描いていたこと、知ってたんですか」
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