三日月の下、君に恋した
「千鳥っていう画家の名前、聞き覚えがない?」

 すぐに思いあたった。深い緑の森の絵とともに。


「あの本の……『三日月の森へ』の絵を描いた人……」

「そう。名前、似てると思わない?」


 菜生は信じられない思いで航を見た。


「もう知ってると思うけど、北原まなみがあの本の中で描いた森は、彼女の故郷の森がモデルになってる。葛城リョウの次回作も、あの土地の森が舞台なんだ。だから彼は、千鳥という画家にあの森の絵を描いてほしいと考えてる」


 菜生は絶句した。


 何もかも突然すぎて思考がついていけない。


「社長が……あの本の……ほんとに……?」

「本人に確かめたわけじゃないけど、たぶんそう」

 菜生はすっかり混乱しているのに、航の声はひどく冷静だ。


「知ってたんですか……? 社長が、あの本の絵を描いた画家だってこと」

「うん」


「葛城先生が書いてる作品の舞台が、あの森だってことも?」

 航が答えを迷ったので、菜生はうながすように言った。

「葛城先生とは、友達なんですよね? ずっと前からの」
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