三日月の下、君に恋した
「原稿」

 何か叫びかけたリョウが、一瞬怒りを抑えこむように黙り、持っていた茶封筒を航の目の前に乱暴に突き出した。

 受け取った封筒の厚みに「順調だな」と言うと、リョウはふてくされた表情のまま縁側に座りこみ、「裏切者」とつぶやいた。


「怒るほどのことじゃないだろ」

「てめーが言うな」

「別にいいじゃないか。葛城リョウが今どき手書きで原稿を書いてるなんて、ちょっと意外で……つーか面白くて、話題になるかもしれないし」

「なりたくねーよっ。何でそんなことをわざわざ広告で全国に公表しなきゃなんねーんだ、バカみてーじゃねーかっ」


 リョウの怒りはなかなかおさまらない様子だったが、航は嬉しかった。

 自分は情報を提供しただけで、アイデアやスケッチはほとんど何も残してこなかった。山路に送った最後のメールは、情報にアクセスする方法を知らせるもので、山路が見て見ぬふりをすれば終わっていただろう。


「それで、うまくいきそうなのか?」

 もはや彼らとは無関係だと言い聞かせてきたのに、やはり経過が気になって、つい尋ねてしまう。営業企画部が葛城リョウに連絡を取ってきたということは、まだ諦めていない証拠だ。
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