三日月の下、君に恋した
 リョウは仏頂面のまま「知らねーよ」と意地悪く言う。


「何とかするつもりみたいだけどな」

 それを聞ければ満足だった。


「そんなことより、どーなんだ」

「何が?」


 封筒の中から原稿を取りだし、中身にさっと目を通す。

「何って、決まってんだろ」

「あー、この家のことならちょっと待ってくれ。夏までには何とかするから」

「家のことなんか聞いてねーよ。あのな……」


 そのとき電話が鳴って、リョウが舌打ちしながらポケットを探った。

「あ? 誰だって?」


 電話の向こうの相手に横柄な口調で尋ね返しながら、隣の部屋に移動する。


 しばらく襖の向こうでボソボソと話す声が聞こえていたが、やがて電話を終えたらしく、もどってくると妙に落ち着かない様子で「ちょっと出てくる」と言う。

「どこに?」

「すぐもどる。おまえはここで待ってろ。いいな。絶対にここにいろよ」

 念を押すようにそう言って、慌てた様子で出ていった。
< 224 / 246 >

この作品をシェア

pagetop