三日月の下、君に恋した
 この一年間、歓迎会や忘年会といった部署がらみの飲み会をのぞいて、会社の外での個人的なつきあいは徹底的に避けてきた。

 デタラメな噂が流れるのには心底うんざりしたが、結果的に別人のイメージができあがるなら、それはそれで都合がいいと思った。とにかくバレなければいいのだ。


 百歩譲って、彼女に声をかけたのは出来心だったとしても。その後が最悪だ。


 一緒に過ごしているうちに、自分でもふしぎなほど居心地がよくなってしまい、聞かれてもいないのにベラベラと余計なことまでしゃべってしまったのだから。


 バカか俺は。


 航はノートパソコンのメールソフトを立ち上げ、広告代理店の担当者へ送るメールの文章を打ち込んだ。腹立ちまぎれにキーボードを叩きつける。

 苦労してハトリの中途採用試験を突破し、なんとか社員として雇ってもらえた。

 仕事は順調で、担当した企画もそこそこ成功している。社内での評価は悪くないはずだ。とはえ、入ったばかりの平社員にできることなど、たかがしれている。


 ハトリは来年、創業六十周年をむかえる。


 そのため、この一年間は大々的にプロモーションを行う予定で、営業企画部でも数々のイベントやキャンペーンの企画が持ち上がり、かなり多忙な一年になりそうだった。
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