三日月の下、君に恋した
 この絶好の機会を逃す手はない。これからは慎重に行動しないと、何もかもぶち壊すことになる。


 そんなことは、嫌になるほどわかっていたのに。


 金曜の夜はすべてが狂った。どうかしていたとしか思えない。


 最大のミスは、あの本についてしゃべってしまったことだった。


 あの本を読んだという人間に、航ははじめて会った。


 運命なんて信じていない。現実は気まぐれで冷淡なものだ。たまたま子供の頃に同じ本を読んだ二人が、同じ職場で出会っただけのこと。

 それでも、あの本のことを語っているときの彼女が、あまりにも切実で真剣だったから。

 ずっと大切にして誰にも見せずにしまっていたものを、おずおずと航の目の前に出して見せてくれた、そんな気がしたから。


 彼女のひたむきな瞳の前では、嘘をつくことができなかった。


 でも、それは絶対に犯してはならないミスだった。この会社の関係者に、あの本のことを話してしまうなんて。
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