三日月の下、君に恋した
 二人が生きていれば、自分だって知りたいとは思わなかったはずだ。


 秘密なんて、ずっと知らなくてもよかった。


 二人が抱えてくれていたから、俺は知らないふりができたのだと、ひとり残されてやっと気づいた。二人がいなくなった今、もう誰も、自分の代わりに秘密を抱えてはくれない。


 抱えるのは、たったひとり。


 この世で、自分ひとりだけだった。


 最初のうちは気にならなかった。二人がとつぜんいなくなり、決めなくてはならないことや考えなくてはならないことが、ほかに山ほどあった。

 当時の航はまだ大学生で、そのひとつひとつに振り回され、目の前のことを片付けるのが精一杯だった。

 あっという間に数年が過ぎた。ひとりでいることに慣れ始めたころ、あの秘密が音もなく航の内側に入りこんできて、心の底に巣くうようになった。


 知らないふりをしても無駄だった。気づいたときには、それは無視できないほど大きな存在になっていた。

 常に影となってつきまとい、重くのしかかってくるものの正体も知らないまま、一生抱えていくなんて到底無理だと思った。


 何年も悩み続け、迷った末に決めたことだ。

 誰に何と言われようとかまわない。真実を知らなければならなかった。たとえ他人を傷つけても──。


 決めたはずなのに。

 彼女に事情を話せないことが、なぜこんなにも苦しいのだろう。
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