三日月の下、君に恋した
8.新しい専務
子供っぽいと思われたかも。
菜生は公園のベンチに座って、色褪せたハンカチを目の前で広げてみた。
こんな昔のハンカチをいつまでも大事にして。
元気にはしゃぐ子供たちの声が聞こえる。日曜の午後なので、家族連れが目立った。
高層マンションに囲まれたこの場所は、このあたりではいちばん大きな公園だった。噴水や芝生の丘や、子供向けの遊具がある広場、小さな人工の森の中には遊歩道まであった。
たくさんの家族連れでにぎわう日曜のこの時間、菜生は天気の良い日はかならずここに来ていた。住んでいるマンションからは目と鼻の先なので、手ぶらで化粧もしていない。
あんな恥ずかしい話、するつもりはなかったのに。
彼の前では、いつもしゃべりすぎてしまう。
なんだかまるで、あのころの手紙みたいだ、と菜生は思った。北原まなみに宛てた手紙には、何でも書くことができた。恥ずかしいことも、情けないことも、つまらないことも全部。
今さら悔やんでも遅いけど。
だいたい、彼には恥ずかしいところをさんざん見られているのだ。
あーあ、とため息をついて膝の上でハンカチをたたみ、顔を上げると、スケッチブックを抱えた初老の紳士がこちらにやってくるのが見えた。