三日月の下、君に恋した
 けれども経費削減が当たり前になっている今、時代に逆行していることは否めない。莫大な広告費を使うことに対して、社内から非難の声があがっているとも聞いた。

 営業企画部の面々も、プロモーションを行うこと自体には誰も反対していないのだが、梶専務の強引なやり方には少々腹を立てていた。


 つい先日、まだ顔も知らないうちから、梶専務はいきなり企画書だけを部長宛に送りつけてきたのだ。そして部内の意見も聞かないうちに、勝手に自分の企画を推し進めようとしている。

 六十周年のプロモーションについては、昨年から部内でたびたび話し合ってきたし、企画書もいくつか出ていた。限られた予算内でできる範囲のことを、それぞれが考えていたのだ。

 ところが、梶専務が自らの企画に用意した予算は、部内で想定していた予算の倍以上のものだった。


 部内では、専務の独善的なやり方に不満を抱く者がほとんどで、かと言って異を唱えることなどできるわけがなく、部長と主任になだめられるようにして今日の会議に至ったわけなのだが。

「企画書にある『適切な人物』についてですが。誰がいいですかね。企業広告にふさわしく、我が社のイメージを損なわない人物ということになりますが」

 さっきから部長の声だけが淡々と響き、誰も意見を出そうとしない。
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