三日月の下、君に恋した
 菜生が専務と一緒にいるのを見たとき、一瞬、見て見ぬふりをしようかと思った。

 慎重に行動しなければならないと、毎日のように言い聞かせていた。下手に関わったら、自分の首を絞めることになりかねない。目的を果たさないまま、ここを去ることになる。


 でも──。


 あんなの目にして、無視できるか。


「わかりました」

 まだ腹の底にくすぶる怒りを感じながら、航は静かに答えた。梶専務の口元に、思惑を含んだ微笑が浮かび上がるのを見た。

「期待しているよ」

 この野郎。




 その週の金曜日、朝から社内は浮き足立っているように見えた。

「葛城リョウが来てるんだって」
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