三日月の下、君に恋した
 業務の途中でいなくなったと思ったら、美也子はどこからかそんな情報を仕入れてきて菜生に耳打ちした。

「葛城リョウって、作家の?」

「そうそう」

「何でそんな人がうちの会社に?」

「知らない」

 美也子は珍しく興味がなさそうで、さっさと席に着く。

「あたし、あの人あんまり好きじゃないんですよねー。確かに美形みたいだけど性格悪そうっていうか、ヤな感じじゃないですか? 偉そうだし、すぐ暴言吐くしさあ」

 それは菜生も知っている。


 マスコミ嫌いであまりテレビに出ないけど、たまに映ると黒いサングラス越しに暴言を吐いていて、それがまたワイドショーなどでくりかえし取り上げられ、マスコミや世間からバッシングを受けるのが常だった。

 それでも、彼の小説は必ずベストセラー入りするほど売れていて、人格と作品は別物だという見方が定着しつつある。菜生も何冊か読んだことがあるけれど、確かに作品はいい。


 その葛城リョウが、なぜこの会社に来ているのだろう。
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