三日月の下、君に恋した
 菜生はうん、と言いながら、目を伏せた。なりゆきで美也子に嘘をついたことを、後悔していた。そんな日は永遠に来ないのに。


 菜生と美也子が席を立つのと同じタイミングで、奥の窓際のテーブルにいた三人も立ち上がった。このままだと出口で一緒になってしまう。


 菜生はふたたび席に座りなおした。美也子が気づかずに席を離れていく。問題の三人が通りすぎるのを待って、菜生は席を立つつもりだった。


「沖原くん」

 声を聞いただけで、菜生の体が縮み上がった。


 顔を上げると、テーブルの横に梶専務が立っていた。

「頼みたいことがある。悪いが、一緒に来てくれないか」


 近くにいるはずの航や葛城リョウの姿はなかった。


「食事はもう済んだんだろう?」

「はい。あの……」

「じゃあ、来てくれ」

 菜生を見下ろす冷たい目は、この前と同じだった。命令されたも同然で、菜生は反射的にうなずいて立ち上がった。
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