線香花火
線香花火
 真冬の夜、千秋から呼び出された僕はのこのこと指定された場所へと出向いた。
その日はとても寒くて、見上げた空は星が澄んでよく見えた。
指定された場所に着くころには、僕の両手はかじかんでいて、手袋をしてこなかったことを今更ながら後悔した。

 千秋は僕よりも早くそこに着いて、夜空を眺めていた。
 彼女の吐く息は白く儚く消えていった。

「よっ!」

 僕はわざと素っ気なく声をかける。
 千秋に見惚れていたなんて、絶対に彼女に気付かれたくないから。

「遅かったじゃない。すっかり冷えちゃったわよ」

 千秋は文句を言いながら、僕に笑いかける。
 でも心なしか元気はなかった。
 それはわずかな変化だったけれど、僕には分かった。
 だって、僕はずっと彼女をそばで見ていたのだから。
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