線香花火
「どうした、こんな時間に」

 僕は話のきっかけが欲しくてそう聞いた。彼女は手に提げていた袋をこれ見よがしに差し出し、いたずらっぽく笑った。

「花火、しようよ」

 季節外れにもほどがある。
 そう思ったけれど、何となく逆らい難い意志が千秋の中に見え隠れして、僕はため息をついた。

「何よ。いいじゃない。冬の花火も乙でしょ!?って言っても夏の残りだから線香花火しかないんだけどさ」

 そう言ってちょっとむくれてみせた彼女は、その場にしゃがむと勝手に準備を始めた。
いつもこうだ。
僕の話なんてまるで聞いていない。
文句の言いようもなくて、僕も彼女にならって準備を手伝った。

 かじかむ手で、線香花火に火を灯す。
 線香花火は幸いにもしけっておらず、それはかすかな火薬の匂いとともに、パチパチと光を放ちだした。
 澄んだ空気の中で、それはとてもきれいに見えた。

「ねぇ、きれいでしょ?」

 千秋はそう言って笑いかける。
 でも僕には、そんな千秋の横顔の方がきれいに思えた。そんなこと、言えやしないけど。
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