存在認定恋愛論



隣で蛇口を捻ってから九条が
大きくため息を吐いた


天才と呼ばれてはいるが…所詮

「人気者は大変だな」
「ははっ、…そうでもないですよ」


手洗い場の窓から見える
赤く染まった空を見つめる九条は
苦笑いを口元に浮かべた


キュッと蛇口を捻る音がして
水の音が止まる


「私は、大丈夫ですよ
 もう自由に空を舞える“蝶”
 …ですから」


自嘲したような笑顔と共に
九条は部活動に戻っていく。


「蝶…か」


可愛いげのない奴だと思う
辛いなら、辛いと言えばいいものを


俺はため息を隠すように
プリントを置いた廊下に向かった



戻れば、片腕に
可愛い包みを積み重ねた女子生徒が
プリントを拾っていた

「…何してる、」

プリントから目線を外して
振り返った生徒は…

「………宮本先生。」


“蝶”と“さなぎ”の“さなぎ”

九条 なぎさが無表情を浮かべて、
感情の読めない声で
俺の名前を呼んだ…。



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