フラワーデイズ
 それはとても珍しい客だった。

 都心のお店ならともかく、こんなベッドタウンにある店では、たいてい男のお客さんは、花屋は居心地が悪いのか少しでも早く店を出たいと落ち着きがないことが多いのだ。

 ときどき酔っぱらってご機嫌のサラリーマンが奥さんにおみやげ!といいながら買っていくときは上機嫌だけれど、こんな風に落ち着いた笑みをみせた客はあまりいない。

 たとえるなら、奥さんに先立たれた壮年の男性が妻の好みを語りながら花を選ぶときに見せる横顔にそれはよく似ていた。

 だから、こんな若い男の人がそんなふうに笑うなんてとても不思議に思えた。


「それじゃあご自分へのお花ですか」

 ごくまれに、花が好きな男性が自分のために少しだけ花を買っていくこともあるので尋ねてみると、その客は首を横に振った。

「そういうわけでもないよ。なんとなくこのお店が目に入ったんだ」

「そうですか。それじゃあごゆっくりごらんになってくださいね」
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