私の烏帽子さまっ!
最後は夕飯の支度かな。
今日は何にしよう?
私はお母さんから貰った料理の本を眺めながら、うーんと考え込む。
とりあえず冷蔵庫の中に何があるかで決まるかな。
私が冷蔵庫を開けて、何かを探っている時だった。
ある視線が背後から感じた。
この視線は…
『うわぁ!?烏帽子!』
そこには、頬を赤く腫らして、小さい子供みたいにちょっぴり拗ねた顔をした烏帽子が立っていた。
「愛花…、その…。さっきはすまなかった。」
深々と頭を下げる烏帽子。
ちゃんと反省したんだ。
『いいよ。私も思いっきり殴ってごめんね?』
私は赤く腫れた烏帽子の頬を撫でながら言う。てか痛そう…。自分でやったんだけど、超痛そう。腫れて熱持ってる。
「いや、これは私が悪いのだ。愛花が謝る事ではない。」
『でも…。じゃあコレで冷やして。』
私は冷凍庫から保冷剤を取り出し、ハンカチで包んだものを烏帽子に渡した。
「これは何だ?冷たいな。」
『あーそれは保冷剤って言うの。氷みたいな物よ。』
「ほ、ほれざい…?よく分からないが、ありがとう。」
ニコッと微笑む烏帽子。
笑った顔、かわいい。でもさっきのは許せないけど。
『じゃあ、そこに座ってて。私、夕飯の準備するから。』
「わかった。」
私はひとまず烏帽子をダイニングのイスに座らせた。リビングのソファでも良かったけど、キッチンからリビングの様子見えないし、目を離したら何するか分からないから、とりあえず目の届く範囲にということで。
『じゃあ今日は、肉じゃがにしよっかな。』
冷蔵庫から期限真近の牛肉と玉ねぎ、人参、ジャガイモ、数日前に開封済みの糸こんにゃくを台に並べて調理開始。
料理は、お母さんが本格的に仕事を始めてからずっと私がしているから、すごく得意だ。小学三年からやってるからね。
だから、夕飯なんて朝飯前。包丁の扱いなんて、お母さんより上手なつもり。
…でも今日はあんまりうまくいかないなぁ。
『あの、烏帽子。あんまり見られると気が散るんだけど。』
私は玉ねぎを切りながら、さっきから感じる視線に耐えきれずに言った。