琥珀色の誘惑 ―王国編―
舞の目の前にいるラシード王子は、失礼だが何処か抜けている。

この離宮の構造を詳しく調べたり、四方の部屋に焚いたという催眠効果のある香の準備をしたりなど、抜かりなく整えられるタイプにはとても思えない。 

舞が少し考え込んでいると……。


「おい、お前。お前は本当にアルに純潔を捧げたのか?」

「失礼なこと言わないでよねっ! あなたが日本人女性をどう思ってるか良くわかったけど、アルがムスリムの誓いを破る人間かどうか、そんなこともわかんないの?」

「僕は聞いたんだ! アルが王太子の宮殿にお前を入れ、妃の間に寝泊りさせ、夜な夜な通っている、と。同じ寝台で、それも裸で寝起きして……」
 

何でそんなことまで知ってるのよ、と叫びかけたが……。

このラシード王子、なんと舞より真っ赤である。その時、ふいに気付いたのだ。弟の遼に似ている、と。よく考えれば、ラシード王子のほうが舞より二歳年上なのだけど。


「ねえねえ、ラシードって純潔なの?」

「ばっ、ばかものっ! 男に純潔などという言葉はない!」


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