琥珀色の誘惑 ―王国編―
その瞬間、舞はドキンとした。


(ライ、ライ、ライラですってえぇぇ!!)


「い、いま……ライラって言った?」

「そうだ。ライラは一族を挙げて、国王の第一夫人にと期待されている。今のところ、アルは受け入れる気配はないが。ライラは幼い頃からアルに好意を寄せていた。父親からマフムードの婚約者に決められていたが、奴が死んだ時は本当にホッとしていた。これで、アルのお嫁さんになれる、と」


ラシード王子とライラは同じ歳で、正真正銘の幼なじみであった。

国王陛下が王弟時代に住んでいた宮殿と、ライラの屋敷は背中合わせになっていて、六歳までは一緒にお風呂にも入っていたという。

栗色の巻き毛が愛らしい、可憐な少女だった――と、ラシード王子はうっとりするような眼差しで話す。


「ライラは、アルにムスリムの誓いを忘れさせたお前が許せないと言ったんだ。お前の本性を知れば、アルも目が覚めるはずだ、と。ライラは優しい娘だから、アルもいつか気付く日が来るだろう」


遠い目をしてライラを称賛するラシード王子を、花瓶で殴りたくなる衝動に駆られた舞だったが……。

その時、離宮と主屋(おもや)を繋ぐ渡り廊下から、大勢の足音が聞こえた!
  

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