琥珀色の誘惑 ―王国編―
さすがミシュアル王子の母上と言うべきか……。

男子禁制の後宮で息子のラブシーンに遭遇したのだ。しかもその場所は、ヌール妃以外は入ることが許されていない“祈りの間”。多少の動揺くらい見せそうだが、実に余裕綽々である。

女官たちは物音を聞きつけても飛び込むことが出来ず、ヌール妃を起こしに行ったらしい。


「見えてたよね? さっきの」

「抱き合っていたのは一目瞭然であろうな」

「見逃してくれたってこと?」

「それは……何とも言えぬが。舞、離宮までの道は覚えているな? 護衛の女官に見つからぬよう。万に一つも見つかった時は、迷っただけだと押し切れ。下手に出ては侮られるぞ。愛想笑いは禁物だ」
 

ついさっきまでの甘いムードは消え去り、ミシュアル王子は今にも抜け道に消えてしまいそうだ。


「ねぇ、ここはどうやって閉めるの?」

「心配無用だ。私が内側から閉じる」

「もう、行っちゃうんだ」

「……舞。何を考えている」


明日、いや、もう今日である。昼にはミシュアル王子が迎えに来て、彼の宮殿に戻る予定だ。二日ほど喧嘩していたから、ミシュアル王子は舞の部屋には来なかったが……。

抱き合って眠った夜のアレコレを思い出し、舞は真っ赤になってしまう。


< 135 / 507 >

この作品をシェア

pagetop