琥珀色の誘惑 ―王国編―
どうやらターヒルは、シャムスから詳細なやり取りを聞いたらしい。


『無断で我が後宮を抜け出し、国外逃亡が可能だと思うほど、彼女は愚かではない』

『はっ』



クブラーはヌール妃の後宮に採用される前、幾つかの王族に仕えている。

それ以前、三年ほどの結婚生活と未亡人としての数年は、地方都市で過ごしていた。国外に出たことはなく、国内の過激派との繋がりも皆無。父親は大工で六人もの兄弟姉妹がおり、公的書類には『子供はなし』と書かれてあった。

彼女がハルビー家に勤めていた二年間の記録は、跡形もなく抹消されていた。

それは、この時のミシュアル王子やターヒルに気付くはずもなく……。



王宮では会う人間ごとに『本日発たれたのでは?』と尋ねられた。

その都度、婚約者の体調不良を伝えたが……。

『カイサル陛下の時と同じご事情ですかな?』と含み笑いを返され、ミシュアル王子は不愉快な思いに終始することに。


かといって、王太子の宮殿に戻っても安堵出来るはずがない。

彼はクブラーのこれまでの勤務先をはじめ、縁者すべてに見張りをつけた。そして……空港、駅、バスターミナル、ダリャ市外に通じる道路全部、極秘裏に検問を敷いたのである。


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