琥珀色の誘惑 ―王国編―
舞が写真立てを掴んだままであることに気付いたのは、部屋を出た後だった。


(後でクブラーに聞いてみよう。でもライラって母親ソックリなんだ)


その時、ふと考えた。このまま舞が戻らなければ、ミシュアル王子は間違いなくライラを妻とするだろう。そして、ライラは彼の子供を産み、この写真のようになる。

でも、それが自然な姿なのかも知れない。

ミシュアル王子も正妃のいない国王なんて呼ばれたりせずに済む。たったひとりの妻だけど、第一夫人じゃないなんて、どう考えても変だ。

この国の為にも、ミシュアル王子の為にも、そして舞自身の為にも……。


舞が気弱になった時、聞き慣れた日本語が彼女の耳に飛び込んで来た。


「日本語で、ございますか? それは一体どういう……」


クブラーの声だ。

どうやら、使用人用の個室がある方面まで来てしまったようだ。ちょうどいい、色々聞いてみようと舞は声のする部屋に近づいた。


「えっ!? アーイシャ様を? しかし、それは危険でございます。もし捕まってしまわれたら……。それに、ここは砂漠にも近いので本当に外国人女性は……」


舞は“アーイシャ”の名が出たことに驚いた。どうやら電話中のようだ。

話し相手はヌール妃か、クブラーと同じくヌール妃から密命を受けた女官か。しかし、それにしては内容があまりにも剣呑としている。


「それはわかっております。しかし私の役目は、式が終わるまでアーイシャ様を此処から出さないようにすること、と聞いております。そのようなお命に関わる危険に追い込むような真似は……。私には出来ません――ライラ様っ!」



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