琥珀色の誘惑 ―王国編―
日本の成田空港を出発し、クアルンの首都ダリャまで約八七〇〇キロ。

実は、日本からの直行便は出ていない。通常のコースで入国すると、なんとフライト時間だけで十七時間以上掛かる。実際の入国までは丸一日を要する。クアルンは遠くて遠い国だった。
 

だが、クアルン王国シーク・ミシュアル・ビン・カイサル・アール・ハーリファ王太子の所有するプライベートジェットは直行便。

そして今回、生まれて初めてミシュアル王子は、女性をこの専用機に同乗させた。

その女性の名前は月瀬舞、生粋の日本人だ。彼女は十五年も前に決められた、王子の正式な婚約者だった。
 

国に戻れば様々な問題が待ち構えている。


だが、ようやく想いが通じ合ったふたりだ。ミシュアル王子は、十日後には花嫁となる舞と共に、約十二時間余りの空の旅を存分に楽しむつもりで期待していた。



「全く! 許可したのを良いことに、両親や友人といつまで話し続けるつもりか!?」


確かに、三十分以上話し続けてしまった。家と同じように考えていた舞にも責任はあると思う。

だが、全てがいきなりだったのだ。

両親にしても、まさかあのまま娘を連れて行かれるとは、思ってもみなかっただろう。


強引に連れ去られた訳ではないこと。舞もミシュアル王子との結婚を望んでいること。そして、向こうの結婚式には参列して貰えないが、披露宴には招くから……と。

その後は一度日本に戻り、両親の望む花嫁衣裳を着て披露宴が出来ることも伝えたかった。

両親を安心させたくて話し込んでいると、ついつい時間が掛かってしまい、桃子との電話はついで、である。

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