琥珀色の誘惑 ―王国編―
そして今……ミシュアル王子がこの場所を訪れ、『我が婚約者、アーイシャ・モハメッド・イブラヒームを返して貰おう』そう告げて、十数分が経過している。

ミシュアル王子の忍耐は既に許容範囲をオーバーしていた。


『アル=バドルの新しき族長は礼儀を知らぬようだな。出て来ぬというなら、こちらから行こう』


実戦用のジャンビーアに手を掛けたまま、ミシュアル王子は一歩踏み出した。

その行動に、起き出したばかりのアル=バドルの男たちはどよめく。その中から壮齢の男がミシュアル王子に向かって走り寄った。


『ヤイーシュ様からの伝言です! 中央の広場まで、王太子殿下と側近のターヒル殿だけで来られたし、と』


伝令の男は剣を腰から外していた。叛意はない、との意思であろう。片膝を砂につき、頭を垂れる。


『私を呼びつけるとはいい度胸だな。しかもそのような条件、この私に従う義務があると思うか? 答えてみよ』

『……ヤイーシュ様は仰せでした。ひとりの女性と王太子殿下の名誉の為である、と』


ミシュアル王子はギリッと歯を食い縛り……『ターヒル、参れ!』そう命じた。


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