琥珀色の誘惑 ―王国編―
岩の頂上に登った瞬間、視界が開けた。

ほんの十数メートル先で、ジャンビーアを交わすふたりの姿が舞の目に飛び込んでくる。しかも、なんとふたりとも上半身裸だ!


砂の上に、ミシュアル王子の白いトーブとグトラが落ちていた。

グトラはヤイーシュの剣先に掛かり、飛ばされたのかも知れない。その証拠に、ミシュアル王子の左頬には赤い線があった。


だが、素人の舞にもわかる。押されているのは、明らかにヤイーシュの方だ。

ヤイーシュの青いトーブは所々斬り裂かれ、ぼろ布のようになり砂に塗れていた。彼の肌はあちらこちら傷つき、結構な重さのあるジャンビーアを振り回すたび、血が舞い散っている。ヤイーシュの荒い呼吸が、舞のいる岩の上まで聞こえるかのようで……。


一方、オリーブ色の肌をしたミシュアル王子は、頬以外は傷らしい傷も見当たらない。

泰然とした面持ちでヤイーシュの剣を受けるさまは、


(カ……カッコいい~~。口先だけじゃないんだ)


焦げ茶色の髪はほとんど黒に見える。太陽の当たる部分だけ煌めき、それはまるで王冠のようだ。


「舞様! そこは危険です。下りてくださいっ!」


不意に斜め下から日本語で怒鳴られた。


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