琥珀色の誘惑 ―王国編―
ターヒルがアル=バドル一族の青いトーブを被っている。目立たぬように、拝借したらしい。

もちろん、舞もそのつもりだ。決闘を眺める為に上に登った訳ではない。ミシュアル王子の半裸に見惚れていたのは“乙女心”と“成り行き”である。


舞が広場側に飛び降りた瞬間、周囲から声が上がった。だが、アラビア語で言われても、意味がわからない。

周囲の声を無視して、舞はミシュアル王子に向かって叫んだ。


「アル! ヤイーシュを斬らないで! ヤイーシュはわたしに触ってもいないんだからっ! 何にもしてないんだからねっ」


それはヤイーシュが剣を構え直し、ミシュアル王子に斬りかかった瞬間――。

そして、ミシュアル王子が自身の剣で受けようと握り直そうとした時のことだった。


ミシュアル王子は舞と正面から向き合う形だ。

その代わり、ヤイーシュは舞に背を向けていた。決闘の最中に意識を逸らすことは命取りだろう。だが、ごく自然にミシュアル王子の視界に舞は入り込み……直後、彼は目を見開いた。 

刹那――ミシュアル王子はジャンビーアを逆手に持ち替え、叫んだのだ。


「舞! 動くなっ!」


(え? どうして?)


そう思った瞬間、ミシュアル王子はジャンビーアを舞に向かって矢のように放った! 


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