琥珀色の誘惑 ―王国編―
マッダーフが知った時、ライラは妊娠五ヵ月だったという。

日本人なら、親に知られないうちに中絶という選択肢が一番多いだろう。何と言っても騙されたのだ。親が気付いたとしても、我が子の未来を考え、それを薦めるかも知れない。

だがムスリムにとって、堕胎は罪悪の一つだ。

マッダーフはライラを極秘のうちに帰国させ、この離宮に閉じ込めた。そして五ヵ月後、産まれた子供はライラと同じアーモンド色の肌をした……金髪碧眼の娘であった。写真はセピア色で髪や目の色はわからない。


『最悪でも息子を産めば……。或いは、アラブ人の子供であればよかったものを。この子供を人前に出すことは許さん!』


マッダーフはそう言い捨て、ライラから生後一ヶ月の娘アーイシャを取り上げたのだ。

娘を返して欲しいと泣いて縋るライラに、マッダーフは厳命した。『どんな手段を用いてもミシュアル王子を陥落して正妃になれ』と。



「え? 純潔ってうるさく調べられるんじゃないの?」


舞の疑問にライラは苦笑して答えた。


「手術を受けたのよ。純潔を取り戻す手術があるの。敬虔なムスリムほど、女性には慣れていないから。ほとんどのクアルン男性なら、初夜で出血があれば信用するものよ」


ライラの言葉を聞き、舞はミシュアル王子を見上げた。

王子は舞の視線に気付いているらしいが……見ようとはしない。舞はそのまま視線をターヒルに移す。だが、ミシュアル王子と同様だ。どうやら『ナアム(イエス)』らしい。


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