琥珀色の誘惑 ―王国編―
その後、ライラの娘アーイシャはマッダーフにより海外に連れ出された。

そして別の名前が与えられ、養女に出されてしまう。どこの国に連れて行かれたのか、新しい名前も教えて貰えず……ライラには探す術(すべ)もない。

嘆き悲しむライラに、マッダーフは条件を突きつけた。

彼女が王太子……やがては国王の正妃となれば、娘をクアルンに連れ戻してやろう。マッダーフが外国人女に産ませた庶子の名目で、ライラの妹として、後宮で一緒に暮らせるようにしてやる、と。

ライラは娘を取り戻したい一念で、マッダーフの言葉に従った。



「アルの言う通り、わたくしは鎖を外しても自由にはなれませんでした。ひとりでは飛ぶことも叶わず、地に落ちた惨めな雛(ひな)です。――アーイシャ殿。あなたの名前を聞いた時、わたくしは運命を感じました。もう一度、何としても自分の力で飛びたかった。わたくしは謝りません。そして、後悔もしておりません。これもすべて、アッラーの思し召しです」


ライラはしっかりと顔を上げ、キッと表情を引き締めた。決して涙は流さず、歯を食い縛る。


『マアッ・サラーマ アッ・サラームアライクム(ごきげんよう。あなた方の上に平安がありますように)』


優雅に会釈すると微かな笑みすら湛え、ライラはアバヤの裾を翻した。

そしてターヒルと共に、部屋を後にしたのだった。


残されたふたりは、複雑な思いに胸が塞がり言葉が出ない。

数分が経ち、ようやく舞が口を開こうとした時――階下で叫び声が上がった!


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