琥珀色の誘惑 ―王国編―
だが、ライラの置かれた状況は、舞が思った以上に複雑だったようだ。

ミシュアル王子が言い難そうに口を開くと……。


「気の毒だが、例え結婚しても、君の娘アーイシャを取り戻すことは出来ない」


その言葉はライラだけでなく、舞にも衝撃を与えた。



ターヒルの調査によると、基本的にライラが子供を出産した公式記録がないのだという。

出生届は出されておらず、出産に立ち会ったはずの助産婦は証言を拒んだ。ライラと子供の世話をする為に雇われていたのは十代の外国人女性で、本名はおろか国籍もわからない。

そのため、ライラの妊娠はメルボルンの病院で確認済みだが、出産は未確認と報告書には書かれている。

子供の存在を示す物的証拠がない以上、マッダーフは決して認めないだろう、とミシュアル王子は言う。

なぜなら、マッダーフは“王太子妃候補”として、長老会議にライラを推薦している。長老方も、正式にライラをミシュアル王子の正妃候補として、国王に進言した。そのライラが未婚の母であったとなれば……。


「マッダーフは軍務大臣を辞職せねばならない。ハルビー家当主の座すら追われかねない失態となる」


たかが娘の縁談一つ、と舞なら思う。

だが、そうはいかないのがムスリムだった。


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