琥珀色の誘惑 ―王国編―
ミシュアル王子の正妃の座を諦め、マッダーフはライラをラシード王子の妻にしようとした。当然、ミシュアル王子の廃太子を見越しての策である。

だが、マフムード前王太子に比べ、ミシュアル王子は隙がない。国民の人気も高く、マッダーフとしては出来る限り避けたい案であろう。


『なんとしてもアルの正妃になろうとしたのは、僕たち兄弟を敵対させない為だ。僕の求婚を断わり続けたのも、同じ理由だろう?』


ラシード王子は何ていい奴なんだろう、と思いつつ……。舞は、ライラが求婚を断わったのは、別の理由があるような気がする、と考えていた。

フッとライラと視線が合ったが、彼女も困ったように微笑む。どうやら“正解”らしい。ラシード王子は「あなたっていい人ね」の典型なのだと思う。

でもこの時、舞はライラも本当の悪人じゃないんだ、とわかった。

ライラは娘を取り戻す為なら何でもする、と言った。人の好いラシード王子の言葉に乗り、「王子の娘です」と言ってしまえば楽なのに、それはしなかった。

ライラは舞にもわかるように、キッパリと日本語で言い切る。


「いいえ。違うわシド、娘の父親はあなたではありません。金髪で青い目の子供を、あなたの娘と言うほど恥知らずではないわ。シド、長い間ありがとう。助けてくれたことは一生忘れません。たとえそれが、どれほど短い一生であったとしても……」


ところがどっこい、ラシード王子もここで引かなかったのである。


「いいや! 金髪だろうが赤毛だろうが、君が産んだアーイシャの父親はこの僕だけだ!」


(うーん、やっぱりラシードもアルの弟だなぁ)


その執念深さ……いや、一途さに思わず感心する舞であった。


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