琥珀色の誘惑 ―王国編―
「だから、何? 仕方ないじゃない、ライラはこの国の王族として生まれたんだから! わたしがただの日本人として生まれたように。でも、最後まで諦めたくない。アルが何とかしてくれるって信じたい。その……もしライラと結婚することになっても、子供を取り戻したらすぐに離婚、とかさ」


呑気な舞を横目に、ライラはため息をつく。


「離婚は無理です。それに……父上はわたくしに王子を産むよう迫るでしょう。逆らえば、再び娘を取り上げられます」

「ど、どうしてっ!?」


舞の問いにライラの答えは、彼女の娘はあくまで“マッダーフの庶子”になるからだという。


娘の処遇を決めるのは父親だ。ライラの娘に関する全ての権利は、マッダーフが持っている。

ライラが父に逆らえないとなると、彼女は再びミシュアル王子に迫るだろう。しかも、正妃という立場を使って――。


舞が絶句していると、テントの入り口で人の気配がした。

先ほどと同じ女性だろうか、早口のアラビア語が聞こえる。一呼吸置いて、シャムスは日本語に訳してくれた。


「ミシュアル王太子殿下のご到着でございます。――ライラ様、すぐに祭壇までお越し下さいますよう、お願い申し上げます」


ライラの名を告げる、悔しそうなシャムスの声が辺りに響いた。


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