琥珀色の誘惑 ―王国編―

(23)ウエディング・ナイト

ミシュアル王子は儀式予定時刻の数分前、ようやくテントに入った。

そこは王太子のために用意された立派なテントである。

何重もの布製の幕が下ろされ、いくつかの小部屋に仕切られていた。天井に張られた天幕は絹で織られており、実用ではなく飾りだ。絨毯も重ねて敷かれ、そこが砂漠であるとは全く思えない作りであった。


目頭を押され、疲れた素振りでグトラを留めた黒いイガールを力任せに引き剥がした。

頭を軽く振り、ミシュアル王子が深く息を吐いた瞬間――テントの中にラシード王子が飛び込んできたのだった。


『アル、一体どうなってるんだ? わからないことだらけだ。僕にもわかるように説明してくれ!』

『お前はアッラーに祈っていればいい』


ミシュアル王子は恐ろしく無愛想に言い捨てた。

だが、ラシード王子もめげずに縋りつく。


『僕に出来ることがあったら言って欲しいんだ。何でもする。――アーイシャ殿は、アルが何とかしてくれると信じている。不可能ならハッキリそう言うべきだ。結婚の儀式も通常、日を替えるものだろう? アーイシャ殿を一旦日本に戻し、即位も含めた一連の儀式が落ち着いた後に、再度求婚すべきじゃないのか?』


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