琥珀色の誘惑 ―王国編―
極度の緊張が解けたことで、舞は力が抜けて涙がポロポロ流れてくる。

せっかくの化粧が剥げると思ったけど、もう止まらない。


「もういいよ、わたし、日本に帰る。もうヤダ……何が起きてるのか全然わからないのに、アルは怒ってばっかりだし。さっきはいきなり斬られそうになるし。それに……わたしの家族は誰も来てないもの」


ライラの子供はどうなったのか。マッダーフとの決着がついたのか、ついてないのか。舞とミシュアル王子の結婚式はどうなるのか。

舞にはわからないことだらけだった。

そのまま突っ伏して泣き続けようとした時、舞は正面から思い切り抱き締められた。


「済まぬ。私の気遣いが足りなかった。月瀬の家族はすでに入国し、王宮に国賓として滞在して貰っている」

「お父さんも、お母さんも、遼も……この国に来てるの?」


舞は、ミシュアル王子が居てくれたら平気、と思って日本を後にした。だが、両親と弟が近くにいると聞くと、やはり嬉しい。

ミシュアル王子は舞の髪をゆっくりと撫でながら、


「そうだ。先ほどヤイーシュが“仕度は整っている”と言ったであろう? これから、我々の結婚式を執り行う。もちろん、お前の“父”も来ている」


そう言った。

舞はハッとして、ミシュアル王子の顔を見上げた。


「ほ、ほんとに?」


視線が絡み合った直後――キスが嵐のように降って来る。


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