琥珀色の誘惑 ―王国編―
当然のように、他国の王女なのだからクアルン国民ではない。

しかし、様々な問題を婚姻により解決するケースは多いのだ。政略結婚は王族にとって義務にも等しい。そんな事情で受け入れた王女を、正妃としなければ戦争の引き金にもなりかねない。


「サディークは、お前の父・月瀬暁の代役ではなく、養父だ。お前の正式名はアーイシャ・モハメッド・イブラヒーム・サディーク・アル=カフターニー。お前は、ラフマーン・スルタン国のアーイシャ王女――そして、私の正妃となる女だ」


舞の頭の中にはアラブの名前が飛び交っていた。

日本ではごく普通の公務員の娘だった。それが、いきなりスルタン国のプリンセスなんて……信じられるわけがない。

だが、落ち着いてくると、それなりに状況が飲み込めてきた。

どうりで、ラシード王子が使者に立てられたはずである。あの時、舞は隣国の王女だったのだ。何か言いたいが、何も言えない。


舞が呆然と座り込んでいると、一族の男性が、準備が整ったとミシュアル王子を呼びに来た。

彼は不安そうな眼差しを舞に向けつつ、テントを後にしたのだった。


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