琥珀色の誘惑 ―王国編―
「なぜ、何も言わないのですか?」


不意にサディーク王子に問われた。

テントの中には彼とふたりきりだ。父親なのだから、おそらく問題はないのだろう。


「何も……知らなくて。なんて言ったらいいのか……」


こんな計画があるなら、初めから教えておいてくれたら良かったのに。

舞の中に小さな不満が湧き上がる。


「幾つもの障害があり、正式に我がスルタンの許可が出たのが、四日前の夜だったからでしょう――」


言葉足らずのミシュアル王子に代わり、サディーク王子が色々と教えてくれた。

彼の話では、クアルン王室の長老会議は『日本人女性を正妃には認めない』と議決したという。そして、『ミシュアル王子が即位した場合、一年以内に正妃を娶るように』と命じた。

父王の体調はかんばしくなく、譲位は必須だ。その場合、会議の決定を遵守せざるを得ない。


ミシュアル王子は最後の手段に、養子縁組の話を極秘裏に進めていた。


しかし、サディーク王子からは中々良い返事が貰えず……。

アッラーの名の下に舞と交わした誓いを守るなら、捨てるのは王位だけでは済まない。

それほどまで、ミシュアル王子は追い込まれていた。


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