琥珀色の誘惑 ―王国編―
それが九日前のこと。

ちょうど舞が国王陛下に謁見して、後宮に泊まった頃の話である。


「知らなかった……だって、誓いは必ず守るって」


時折、辛そうな顔をしていたのは覚えている。だが、泣き言も愚痴も一切口にはしなかった。

舞が声を震わせながら言うと、サディーク王子はゆっくりと頷く。


「彼はそういう男です。ミシュアルは一歳年下の私をいつも気遣ってくれました。私は自分のことが精一杯で……これまで、彼の力にはなれなかった。今回、何としても彼の願いを聞き届けたいと思ったのです」


そしてラフマーンのスルタンからお許しを貰うため、ミシュアル王子は単身、隣国の王宮に乗り込んだ。しかも、丸腰で……。

舞が王太子の宮殿を抜け出した後、彼女を探すだけでなく、そんなことまでしていたのだ。

舞を取り戻した途端、眠りこけても無理はない。


「ミスター・ツキセにも会いました。ミシュアルは――あなたの幸福の為、あなたを正妃にする為に父親の権利を手放して欲しい。そう言って彼に頭を下げたのです」



舞は涙が止まらなかった―― 


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