琥珀色の誘惑 ―王国編―

(29)誘惑の千一夜

「舞、お前を愛している。アッラーの名に懸けて、生涯、愛し続けることを誓う」


これまでの、適当に誤魔化されてきた“愛の言葉”ではない。ハッキリと耳に届いた“神に示した決意”は、結婚の誓い以上に舞の心に沁み込んだ。

彼女は倒れこむようにミシュアル王子に抱きつく。


「愛してる。アル、愛してる。でもわたしのせいで、アルが困った立場になったんじゃないかって……それだけが心配」

「困った、とは?」

「わたしをラフマーンの王女に、なんて。随分無茶をしたんじゃない?」


あのサディーク王子にも無理を言ったのではないか。ミシュアル王子が国王となり、統治して行く上で借りを作ってしまったのでは……。舞はそれを案じていた。


だが、ミシュアル王子は舞の髪から飾りを取りながら、得意気に笑ったのである。


「そのような心配は要らぬ――」


前王太子マフムードが、結婚直前で破談になった隣国とはラフマーンのことだった。そして相手の王女が、なんとサディーク王子の姉。

原因を作ったのはクアルン側とはいえ、婚約破棄を申し入れたのはラフマーン側。当時はかなり不穏な空気も高まったという。

そしてクアルンの国王が代替りし、新たな縁談の声が出たが……。


「ラフマーンの四人の王女は全員結婚し、独身の王子ふたりを残すのみ。一方、我が国は王族の数は多いものの、二十代の王子に嫁がせる似合いの王女がいなかった。この度の件、形式的には次期スルタンの孫が、クアルン王太子の正妃となったのだ。政略的にも充分な価値が……」


< 362 / 507 >

この作品をシェア

pagetop