琥珀色の誘惑 ―王国編―
砂漠でミシュアル王子の味方をし、彼を救ったのはアル=エドハン一族。ヌール妃の母親の出身部族だ。

そしてもう一つが、アル=バドル一族。ヤイーシュの部族である。彼がミシュアル王子と出会い、部族を出て仕えることに決めたのは、その時のことがきっかけだった。


ミシュアル王子が今でも年に数回、彼らと共に砂漠で過ごすのは、このとき力を貸してくれた彼らに対する感謝の証だ。



――チャプン。

歳のいった女官たちだけが残り、入り口を固めている。

ぬるくなった湯に浸かりつつ、ミシュアル王子はその湯を両手ですくい上げた。

舞の後だと思うだけで、湯がまろやかに感じ、清々しい香りまで覚えるのは何故だろうか。

ライラの乱入は予想外であったが、政治的な問題で面目を潰すような拒絶は出来ないのが辛い立場だ。
 

女官は可能な限り慎重に選んだ。後宮への来客も、害になる人物は阻止する手筈だ。舞がこの国で過ごしやすいように、全力で守るつもりである。

結婚して王宮に入れば、現在ヌール妃が住んでいる後宮に舞を住まわせる。そしてそれ以外の後宮は、全て閉鎖する予定だ。

ミシュアル王子さえ、ライラをはじめ他の女性に手を出さなければ、何の問題も起こらない……はずである。


(せめて結婚式を終えるまでは、例の件を舞に知られる訳にはいかぬ)


湯を頭から被り、口元を引き締めるミシュアル王子だった。


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