琥珀色の誘惑 ―王国編―
隣の部屋にミシュアル王子が眠っている。

クアルンと東京の時差はマイナス六時間。今は東京なら朝六時くらいであろうか。機中で少し眠ったので、舞はそれほど辛くはなかった。



夕食は素晴らしく美味しいものばかりだった。

とくに、ピラフの上にヤギの煮込み肉を乗せたような料理『カプサ』は、口の中で蕩けそうなほど美味しかった。ヤギは臭いと聞いていた舞には驚きである。なんでも、日本で出されるヤギとは違い、食用に育てられたものだとか。

食事は通常、右手で直接食べるそうだが、舞のためにお皿とスプーン、それにお箸まで用意してあった。


問題はライラ。

彼女は徹底的に舞を無視し、ミシュアル王子にばかり話しかけていた。

だが、どうしてライラまで日本語が話せるのだろう?

そんな舞の疑問に答えてくれたはシャムスだった。


「ヌール様が日本語を話す方を可愛がられるのです。ライラ様はあの通り、国王ご夫妻には健気に尽くされておいででして。国王様もミシュアル様が気に入られるなら、妃のひとりにしても良いとの仰せで」


シャムスは小さく「でも断わられたんですよ」と笑いながら教えてくれた。

どうやら、将を射んと欲すれば……で見事、馬だけ射たらしい。


< 38 / 507 >

この作品をシェア

pagetop