琥珀色の誘惑 ―王国編―
よほど昨夜のことが気になるのか、ミシュアル王子はずっと舞を気遣ってくれる。


「大丈夫よ。だって、馬の方が大きく揺さぶられる感じじゃない? どうしてかな?」

「馬は斜対歩《しゃたいほ》で上下の揺れが大きくなる。だが、ラクダは側対歩《そくたいほ》……同じ側の前後の足を同時に動かして歩くので、左右の揺れが大きいのだ」


言われて見ればパッカパッカという感じではなく、ユーラユーラといった印象だ。この分なら激しく上下動する馬の方が、下半身に響いただろう。

とはいえ、舞の体はミシュアル王子がしっかりと横抱きにしている。彼女の負担はゼロに等しいものだった。


「オアシスまでは近い。ラクダに酔うほどの距離ではないだろう」


ラクダ酔いなんて言葉を聞き、舞は可笑しくて笑ってしまった。

するとミシュアル王子もかなり嬉しそうに微笑み、


「良かった。一日泣かれるのではないか。二度と私に触れて欲しくないと言うのではないか、と案じていたのだ」


彼にしては珍しく、気弱な言葉を口にする。

どうやら花嫁に苦痛を与えた一件は、舞よりミシュアル王子の方が精神的ダメージを受けたようだ。


「クアルンの女性がどうかは知らないけど……。わたしは、アルが女性の扱いに慣れてなくてホッとした。アルのことを知ってる女性なんて、少ないほうが絶対にいいもの!」

「そういうものなのか?」


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