琥珀色の誘惑 ―王国編―
「アーイシャ様には残念なことでしょう。ターヒルさまにお聞き致しました。日本やヨーロッパですと、王妃様も戴冠式に出席される、とか」


王宮の最上階に特別の部屋が用意された。舞はシャムスと共にその部屋の窓から王宮前広場や市街地の様子を眺めていた。

日本には戴冠式はないが“即位の大礼”という儀式がある。

だが、この国では国家行事に女性が表に立つなどあり得ないことだった。チラチラ見える黒ずくめの女性は、雑事に駆り出された女官だろう。

招待客をはじめ、参列する王族も全てが男性。夫人を同伴している国賓もいるが、女性はホテルに待機を命じられていた。

ミシュアル王子はこういった行事に妻を伴えるよう、変えて行くつもりだというが……。


「まずは国民に国王として認めてもらわないとね。急激に変えたらひずみが出るに決まってるもの。こうして、パレードが見学出来るだけで充分よ」


舞はミシュアル王子を気遣いニッコリと笑う。身も心も満たされた新妻の微笑みというヤツである。


「まあ、さすが正妃さまでいらっしゃいますわ」


シャムスも心得ているのか“正妃”に力を籠めて言った。


「やぁねぇ、もう、恥ずかしいってば!」


二人が声を揃えて笑うと同時に、後方の扉が開き入って来たのは――。


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