琥珀色の誘惑 ―王国編―

(10)汝の敵を愛せ

「まあ、アーイシャ様。ご機嫌麗しく、本日はおめでとうございます」


華やかな民族衣装を身に纏い、笑みを浮かべながら入ってきたのはライラだった。

どうせ人目につかないし、部屋から出る時はアバヤで隠すのだから、とシンプルな格好の舞とは大違いだ。そのまま晩餐会にでも出席できそうな衣装である。


「そ、それは、どうもありがとう……。久しぶりね、ライラ。わたしより、そっちのほうがご機嫌麗しいんじゃない? ねぇ、シャムス、今日の祝宴ってわたしたちも出たんだっけ?」

「いえ、本日は男性方のみの祝宴でございます。後宮では後日、王族女性を招いて祝宴が催される予定ですが……」


シャムスも煌びやかなライラに圧倒されたような声で答えた。


「もちろん、存じておりますわ。例え人目につかぬ所でも、気を配りませんと。みすぼらしい姿では夫に恥を掻かせますもの」


ライラは舞の姿を一瞥して、“みすぼらしい”に力を入れる。

しおらしくなったかと思ったが、どうやら相変わらずのようだ。まあ、一朝一夕で性格が変わるはずもないので、別に驚くほどのことじゃない。

舞はニッコリ笑うとライラに言い返した。


「あ、そう? 中身がみすぼらしいよりマシだと思って」


ライラの頬がピクッと引き攣った。彼女の笑顔から余裕の文字が消え始める。



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