琥珀色の誘惑 ―王国編―
舞はそんなライラを無視して、背後に控えるクブラーに声を掛けた。


「クブラー、息子さんはお元気?」

「はい。アーイシャ様のおかげで共に暮らせるようになりました。感謝の言葉もございません」


女官のクブラーはその場に跪き、祈りを捧げるように舞の前にひれ伏した。


ライラの罪を問えない以上、クブラーもお咎めなしと決まった。

なぜなら、舞は王太子の宮殿から一歩も出ていないのだから。体調を崩し、結婚式直前まで臥せっていたことになっている。

事件がなかった以上、犯人もいない。

とはいえ、クブラーは後宮女官の仕事を召し上げられた。ミシュアル王子と舞が首都に戻った時、彼女は逮捕されており、同僚の身分証を盗んだ罪で裁判に掛けられる寸前だった。

しかし、彼女がライラに加担した理由を聞き、舞がミシュアル王子に恩赦を口添えしたのだ。


「騙された上に、閉じ込められ、殺されかけたと言うのに……お前という奴は」


ミシュアル王子もいい加減呆れ顔だ。


だが、ライラを許した以上、身分を理由にクブラーだけを断罪するのは公平じゃない、と舞は思う。最終的には、ラシード王子がクブラーをライラ付きの女官にすることで話がついた。

クブラーは舞のおかげで収監を免れたのである。さらには、彼女の息子・ハイルが犯したと言われる罪も冤罪と判明した。

ハイルはマッダーフの元を離れ、母と共にラシードの宮殿で働き始めたという。


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