琥珀色の誘惑 ―王国編―
ディル――クアルン王国第二王子アーディル王子の愛称である。

今から十五年前、ちょうどミシュアル王子と舞の婚約が整った同時期に、十一歳のアーディル王子も婚約した。

相手は王子らの再従兄妹《またいとこ》で、プリンセスの称号を持つ六歳の少女。アーディル王子が大学を卒業する二十二歳になったら結婚する約束が交わされたが……。


その約束が果たされることはなかった。



『アーディルは本当に戻らないつもりなのか?』


事情を知るサディーク王子は灰色の瞳を曇らせて尋ねる。

だが、ミシュアル王子にも直弟の気持ちは理解出来ずにいた。彼はただ、静かに首を振る。


そろそろ祝宴の広間に戻ろう、とミシュアル王子が歩き出した時、思い出したようにラシード王子が口を開いた。


『あ、そうだ、アル。アーイシャ殿のことなんだけど……』


足を止めたミシュアル王子が聞いた言葉は――。


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