琥珀色の誘惑 ―王国編―
舞たちの数メートル先に小さなアーイシャがクブラーと共に歩いている。

幾つかの疑問を抱えながら、舞はプリンセスを見つめていた。どう見ても彼女の髪は焦げ茶色にしか見えない。金髪碧眼が問題になっていたような気がするのは、思い違いだろうか? と舞は首を捻る。


「ねぇ、ライラ。小さなアーイシャなんだけど……」


舞が口を開くと同時に、ライラの咳払いが聞こえた。


「クブラー、ルナ様の為に小部屋をお借りして来なさい。――王妃様、ご命令を」


クブラーは小さな王女をライラの許に連れて来ると、舞の前に跪いた。ライラの目線はシャムスの後方に控える女官たちに注がれる。

舞もようやく、小さなアーイシャに関する話は、たとえクブラーの前でも出来ないことに気がついた。


『えっと。クブラーに部屋を……。シャムスを残して下がりなさい』


新しく配置された女官は独身で若い娘も多い。名家の娘を行儀見習いの名目で後宮に上げるのだという。親の本音は……万に一つも若き王の目に留まれば、今なら漏れなく王妃の座に! ということらしい。

舞にすれば穏やかならざる事態だ。でも、こればかりはミシュアル王子を信頼するしかない。

加えて、日本語を話す者の多くがヌール妃と共に出て行った。

どっちみち、新王妃として舞はアラビア語を覚えなくてはならない立場だ。


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