琥珀色の誘惑 ―王国編―
茂みが揺れ、姿を見せたのは例の舞を騙して連れ出した女官クブラー。クブラーは咄嗟にアラビア語を日本語に変え、その場に膝をついた。


「クブラー? どうしたの? この子はいったい」

「小さなアーイシャ様でございますわ。――王妃様」


クブラーの来た方向から声が聞こえた。声の主はアバヤを脱ぎ、ゆったりとしたワンピースを身に纏ったライラだった。




「王妃様とこちらのお庭を散策出来るなんて、ほんのひと月前は思いも致しませんでした」


目映い陽射しを受けつつ、ライラは詠う様に話す。

かつて舞が踏み込むことを禁じられた正妃の庭。今はそこを、どういうわけか彼女と肩を並べて歩いている。


庭の手入れも全て女性たちが行うため、どちらかと言えば木々の状態は自然に近い。細い幹の木が多く、この国に欠かすことの出来ないナツメヤシの木も沢山あった。

その隙間から見えるのが、灰色の石で外壁を積み上げられた正妃の宮。今の主は形式上、舞である。

ほとんどの女官がファーティマ妃と共に出て行った。身寄りのない年老いた女官が数名、ここに住むことを許されたのだ。


< 450 / 507 >

この作品をシェア

pagetop