琥珀色の誘惑 ―王国編―
海外から招いた賓客の夫人たちはこぞって煌びやかなドレスを着ており、色が溢れ返っている。招いた国の民俗音楽が次々と流れ、二番目に筝の演奏で日本の「さくら」が流れた。


(なんか……お正月みたい)


舞は外国で聞く「さくら」に少し照れ笑いを浮かべる。

当然、彼女は純白のウエディングドレスを着て――と言いたいところだが。今日の舞は、砂漠の結婚式で着たアル=エドハン一族の婚礼衣装を身に纏っていた。


「まあ、綺麗ねぇ~。アラブのお姫様みたい」


母はいつもながら少しズレた感想を言いつつ、手を叩いて舞の花嫁姿を絶賛してくれた。

せっかくの結婚式に立ち会うことが出来なかった。そんな両親に本番で着た婚礼衣装を見せたかったのだ。だがこのまま行くと、どう考えても父に見せる機会はなさそうだった。


「来月には日本に戻って来て、もう一度、日本風の結婚式をしてくれるんでしょう? お父さんにはそれで充分よ。何回も泣かせたら可哀想ですもの」


と言いつつカラカラと笑う。

顔を見た時は心配そうにしていた母だが、舞がミシュアル王子に大切にされていることを知り、ホッとしたらしい。

今日の母は、随分しっとりした藤色の色留袖を着ていた。

日本の結婚式なら新婦の母は黒留袖を着るのが普通だろう。だが今回は、事前に淡い色合いを指定されたらしい。「京友禅の手描きなのよ」と母は嬉しそうに笑った。


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