琥珀色の誘惑 ―王国編―
出来れば他の男性から『美しい花嫁だ』『国王陛下とお似合いだ』とか言われたら、舞にすれば一安心だ。

しかし、言葉にはしなかった。

なぜなら、クアルンにおいて人妻の顔を見ることなどあり得なこと。ましてや女性が花嫁を美しいと褒めるのは構わないが、男性が褒めると大変なことになる。

双方の身分によっては、男性は女性の声を聞くことも出来ない。

逆に言えば、外国人労働者のほうが主人の妻の姿を見たり、直接話をしたりするチャンスが多いと聞く。

但し、それに伴い問題も生じており……。つい先日も、パキスタン人の運転手と主人の妻が深い仲になり、国外に逃亡したという話を聞いた。夫は直ちに妻と離婚したという。


「愚かなことを。何を身に纏っていても、お前は最高に美しい。今日の白いレースのワンピースも素晴らしく清らかだ」


ギシッとベッドが傾いた。

上着をソファの背もたれに放り投げ、ベッドの端に腰掛けて舞に近づこうとする。だが逆に、舞はベッドから下りようとした。


「こら、舞。私を置いて何処に行くつもりだ」

「だって上着がシワになるもの」

「なら、私がやる。お前はベッドから離れるな」


少しムッとした顔をしながら、ミシュアル王子が自分でハンガーを手に取った。


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